着物を着用する仕事や、茶道や華道といった習い事をしていない方にとって、
着物と言えば、特別な時に着る華やかな衣装、というイメージではないでしょうか?
では、シンプルに見える「色無地の着物」はいつ、どのような時に着用するのでしょうか?
色無地の着物にも素敵な魅力がたくさんあります。
「色無地着物」の特徴
色無地とは、その名の通り“無地染め”の着物のことです。紬や小紋のように細かな柄がないため、一見するととてもシンプルに見えます。しかし、実際には「地紋」と呼ばれる織り模様が生地の中に存在し、光の当たり方でふわりと模様が浮かび上がる奥行きのある美しさがあります。
派手さはなく、落ち着いた佇まいを保ちながらも、式典から食事会まで幅広く使える着物として昔から重宝されてきました。
色無地は、無地染めであることで帯合わせがしやすく、帯の格を変えるだけでフォーマル・セミフォーマル・カジュアルと柔軟に変化します。はんなりとした京都の女性に愛されてきた理由もここにあります。“一枚あると便利”という評価は伊達ではありません。
誰がいつ着ることができるのか
既婚・未婚問わずに着ることができます。
着ていけるシーンが幅広いので、着用する機会が多い着物なんですよ。
(紋の有無・数によって格が大きく変わります)
たとえば、
・紋なし…略装として、食事会・観劇・ちょっとした集まりに
・一つ紋…準礼装として、お宮参り・お茶会・子どもの学校行事
・三つ紋…準礼装~礼装として、結婚式・式典
このように、同じ着物でも紋の数によって場面が大きく変わるのが他の着物にはない特長です。
また、喪服の代わりに落ち着いた色の一つ紋の色無地を着用することも地域によっては見られます。色の選び方によって印象が左右されるため、「色無地は難しい」と感じる方も多いのですが、基本を知れば非常に扱いやすい一枚です。
色無地着物とは
色無地は「後染め(あとぞめ)」の代表格ともいえる着物で、白生地を無地一色に染めて作られます。生地は主に一越ちりめん、縮緬(ちりめん)、紋意匠ちりめんなど。ふっくらした手触りのちりめん生地は、染め上がると美しい深みを持ち、体の動きに合わせて柔らかく揺れます。
地紋(織模様)の有るものと無いものの2種類に分かれています。
地紋無しの素材は 縮緬、一越、 二越、三越の4種類。
そして、家紋の数で格が変動するという特徴があります。
・模様がないため帯が主役になる
・地紋が控えめに輝き、シンプルながら華やか
・フォーマルからカジュアルまで幅広く使える
・色で印象が大きく変わる
特に「淡い色の色無地」は上品で、年齢に関わらず着やすいです。逆に濃い地色はキリッとした印象になり、式典や改まった場に向きます。
地紋の種類
色無地を語るうえで「地紋(じもん)」は欠かせません。地紋とは、織りで表現された模様であり、染める前の生地の段階で織り込まれています。光の角度によって模様が浮かび上がり、無地でありながら豊かな表情を持ちます。
有職文様「流水文・紗綾形文・網代文・雲文・波文」などは慶弔両用
吉祥文様「桐竹鳳凰、松竹梅、笹蔓文、高台寺文、宝尽くし」などはお祝いの席に
有職文様「菱小葵、雲立涌」
名物裂文様「一重蔓唐草、笹蔓文、牡丹唐草の名物裂」
縞・格子文様「横段格子」などは、幅広く活用できます。
地紋とは織り方によって模様が作られます。
それで角度を変えると光の反射で模様が浮き出ているように見えます。
絹ならではの艶模様がとても上品で美しいです。
地紋は上質なほど細やかで、触れば凹凸がわずかにわかる程度の織りが多く、染めることで模様がより上品に浮かび上がります。
リメイクの場合も、この地紋が非常に魅力的なアクセントになり、新しいアイテムに独自の美しさを加えてくれます。
紋の数で格が変わる
色無地の特徴といえば「紋の数によって格が変化すること」です。
・紋なし…街着〜略礼装
・一つ紋…準礼装
・三つ紋…準礼装〜礼装として使用可能
特に一つ紋は非常に使いやすく、茶道のお稽古から子どもの入学式・卒業式まで幅広く利用できます。
三つ紋を入れることで訪問着にも近い格となり、結婚式や正式な式典にも着用できます。
紋入れは後から加工することも可能で、家紋だけでなく「替え紋(しゃれ紋)」というデザイン性のある紋を入れる方もいます。
五つ紋や三つ紋の付いた色無地は、格の高い略礼装のフォーマルなものとなります。
一つ紋の色無地は、訪問着や付下げと同じ略礼装の着物になります。
結婚式やパーティー、お茶会など、幅広くいろんなシーン着用できるので
1枚持っていると大変便利な着物です。
選び方
色無地を選ぶときのポイントは、「色」「地紋」「紋の有無」の三つです。
まず色は、自分の肌のトーンと用途に合わせると失敗しません。
淡い藤色、薄桃色、若草色、灰青などは年齢問わず使いやすい万能カラーです。
華やかな場面が多い場合は淡い色、格式高い場面やフォーマルメインなら濃い色もおすすめです。
次に地紋は、リメイクする予定があるなら細かいものがおすすめです。小物や洋服にしたときも柄が均一に見えやすいからです。
そして「紋」。利用シーンに合わせて紋の数を決めると、後々まで使える一枚になります。
お色は年齢や用途、お顔映りのよい色を選ぶようお勧めいたします。
歳を重ねるにつれて映える色も変わってきます、その時は染め直すこともできます。
色無地の着物は帯がとても引き立ちます。
帯を変えて様々なコーディネートを楽しめるのも色無地着物の魅力です。
色無地着物からリメイク
色無地はリメイクの素材としても優秀です。無地染めであること、地紋が美しいこと、重くないことから、幅広い作品に生まれ変わります。
たとえば、
・ワンピース
・ロングスカート
・ブラウス
・バッグ
・ポーチ
・ストール
淡い色の色無地なら、洋服にしたときに上品な光沢を保ちながら現代的なシルエットになります。濃色の色無地はバッグや小物にすると、深みある上質な雰囲気が出ます。
色無地の生地はやわらかいため、裏地をつければ洋服としても着心地がよく、肌触りも優しいです。
私は色無地の着物と他の着物と組み合わせた洋服にリメイクすることが多いです。
Aラインのワンピースはきれいなドレープが入ります。
また、たっぷりギャザーを入れたワンピースは、くたっとした質感なので広がりすぎません。

同系色の丹後ちりめんを合わせました。
カジュアルな着こなしになりますね。籠バックを持つとお洒落ですよ。

いずれにしても、着物の色や質感などを考慮して、それぞれの着物に合うデザインを心掛けています。

色無地の着物を解いて初めて気づくこと
色無地を解くと、生地全体に広がる地紋の美しさを改めて感じます。仕立て上がった状態では気付かなかった織り模様が、反物の姿に戻ることで一面に現れ、まるで新しい生地を見るような驚きがあります。
また、裏側に染めムラがないか、糸の状態はどうか、生地の厚みはどれほどかなど、リメイクに必要な情報が一気に見えるようになります。特に古い色無地は、時代によって生地質が異なるため、解いた瞬間に「こんなに良い生地だったのか」とわかることも多いです。
色無地はシンプルな着物ですが、解けば奥行きのある伝統の技が詰まっていると知ることができます。この気づきこそが、リメイクにおいて最大の魅力かもしれません。
時代物の着物の状態では分からない、ほどいて分かること
それは、色褪せしていて表面と縫い代の色が違うということがあります。
無地のためくっきり分かるくらい色が変化している時もあります。
その時は、タックを入れたりギャザーを入れたり、目立たないデザインを考え工夫して使用しています。
表裏の違いが無い着物は、裏面を表にして使ったこともあります。
そんな点も、考慮してみてくださいね。